一般社団法人日本臨床検査学教育協議会

臨床検査を学ぶ

生化学

北里大学 石井 直仁

「生化学」は「生物化学」とも言われていますが、医療や臨床検査での「生化学」は、ヒト(生体)を対象とした「生命現象の化学」でもあります。
生体の構造、機能、代謝を化学反応で解明した生命現象を学ぶことは、「免疫学」、「血液学」、「微生物学」、「臨床化学」、等の勉強に繋がります。特に「生化学(健康時)」と「臨床化学(病気時)」は対比して学びます。


  • ポリアクリルアミドゲル電気泳動(タンパク質分離分析)とタンパク質電気泳動像

ゲルのホールに分離分析するタンパク質試料(青色)を塗布しています。溶液中で荷電を帯びたタンパク質を泳動し、小さなタンパク質ほどゲルの網目にひっかからずに早く移動します。分子量の差を利用した分離方法です。

一覧に戻る

生理学

京都橘大学 所司 睦文

生理学はヒトの身体が有する様々な機能と、それを調節し統合する機構を理解することで、健常者の身体の仕組みまたは諸臓器の働きを俯瞰する学問です。ヒトの身体内の心臓、肺、脳・脊髄、肝臓、膵臓、腎臓、脾臓、その他の働きを理解することは学生にとって、とても興味深いと思います。しかし、一見、難解そうなホメオスタシス(恒常性)、ネガティブ・フィードバック機構、細胞膜の構造と静止膜電位ほかの理解も、意外と重要です。生理学を可能な限り詳細に理解することが、次のステップで学習する臨床検査学のひとつ臨床生理学、また、ヒトの疾患の病因や病態を解明する病態生理学に繋がっていきます。

一覧に戻る

解剖学

岐阜医療科学大学 森田 城次

人体の正常な構造を知る「解剖学」は、医学の基礎です。「砂上の楼閣」と同意語に「解剖なき医学」という例えがあるほどです。生理学と共に正常な人体を学び、異常な状態を学ぶ病理学につなげます。実験動物の解剖や人体解剖の見学や参加(一部の大学)を通してマクロでの解剖学を学び、さらに各種顕微鏡等を駆使したミクロの解剖学を学んでいきます。旅行をする時に、行き先の名前や位置を知らないとたどり着けません。臨床検査技師というゴールを目指して、まずは正常な状態を知ること、たくさんの用語を覚えることが大切です。(写真は組織標本を顕微鏡観察し、スケッチを行いつつ微細構造を学習している実習風景です。)

一覧に戻る

病理学

弘前大学 渡邉 純

病理学とは、病気の原因と発症機序を明らかにする学問です。これにより、病気の診断、治療と予防が可能になります。例えば、子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(HPV)感染が契機となり発症すること明らかになったことで、HPV感染の有無を調べることにより子宮頸癌の診断が可能になりました。さらに、ワクチンにより予防できる可能性が示され、将来的にはウイルスに対する治療法の開発も期待されます。また、病院では患者さんから採取された細胞や組織の顕微鏡標本を用いて病気を診断する病理診断が行われています。これは最終診断であり、これにより治療方針の決定や治療効果の判定がなされます。写真1は子宮頸癌の肉眼像、写真2左はその顕微鏡による細胞像(パパニコロウ染色)、右は組織像(ヘマトキシリン・エオジン染色)です。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る

公衆衛生学

名古屋大学 近藤 高明

公衆衛生学の講義では、生活習慣や社会・環境因子と人の健康との関係を学び、健康増進や病気の予防策を考えていきます。生活習慣には運動・食事・喫煙・飲酒などが含まれ、環境因子としては生活環境の空気・水や飲食物に含まれる化学物質、微生物などがあげられます。試験研究機関では、臨床検査技師が有害物質の分析・測定の専門家として活躍しています。また、さまざまな生活習慣が検査結果に与える影響や、臨床検査結果の正確さを評価するためには、統計解析の技術が必要です。公衆衛生学実習では環境測定機器の操作や、食品中の着色料の抽出などを行います(写真1)。演習ではコンピューターを用いて、データを解析する手法を学びます(写真2)。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る

医用工学及び情報科学

鳥取大学 網崎 孝志

臨床検査において、正確で正しい情報を得るためには、検査機器の原理についての理解が不可欠です。また、安全に検査を行うためにも、機器の特性を理解しておく必要があります。このため、医用工学の講義・実習では、電気・電子回路の基礎から医用機器の電気的安全対策まで幅広く学習します。写真1は電子回路についての実験の様子です。
また、臨床検査は医療データの最前線です。情報科学の講義では、医療情報を処理するための情報科学の基礎や病院情報システムについての基本を学習します。写真2は医療データ解析の演習の様子です。最近は、AIが話題ですが、医療データについても、データサイエンスの利用が期待されています。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る

臨床病態学

神戸常盤大学 井本 しおん

臨床病態学の目的は以下の2つです。

  1. 疾患についての学修:1、2年次に学んだ人体の構造、生理機能、恒常性維持のしくみについての知識を基に、それらの異常によってどのような疾患を生じるのか、を学習します。
  2. 診断に必要な検査についての学修:疾患の診断にはどのような検査が必要かを学びます。さらに、検査データからどのような疾患が考えられるかを推定できる能力を育成します。

その上で、チーム医療の一員として、患者に優しく易しく検査結果の説明ができる臨床検査技師の育成を目指しています。

臨床病態学II(3年生後期)の授業スライド抜粋です。

一覧に戻る

臨床血液検査学

金沢大学 關谷 暁子

「血液学的検査」は、医療機関で最も多く実施されている検査のひとつです。大きく分けて、「数の検査」(血液1μL中に含まれる赤血球、白血球、血小板の数や、ヘモグロビンの濃度など)、「形態の検査」(白血病細胞の出現や、血球の形や細胞内の構造物の変化)、「凝固・線溶の検査」(血液の固まりやすさ、固まりにくさなど)の3種類があります。血液疾患(白血病など)だけではなく、貧血や感染症、栄養状態や代謝の異常など、全身の様々な異常がわかります。講義・実習ではこれらの検査を実施し、結果を適切に解釈するための知識や技術を習得します。写真は学生が血液塗抹標本を作成している様子と、標本のスケッチです。

一覧に戻る

病理組織細胞検査学(病理検査学)

東京工科大学 吉田 祥子

病理検査では患者さんから採取した組織や細胞を主に光学顕微鏡で観察して病変の診断を行います。正しい診断のためには適切に作製された顕微鏡標本(プレパラート)が必要です。病理診断(組織診、細胞診)に使用する標本を作製するのは臨床検査技師の仕事です。学生は解剖学や病理学などの基礎医学の知識を身につけたのちに、病理検査学の講義では検体処理や染色法などの理論を学び、実習ではその実践を行い、標本作製技術を磨きます。写真1は染色で使用する器具と出来上がった標本(ヘマトキシリン・エオジン染色)、写真2は薄切操作(組織をµm単位で薄く切り、スライドガラスに貼り付ける)に取り組む学生の様子です。


  • 写真1
  • 写真2

一覧に戻る

臨床一般検査学

京都保健衛生専門学校 小澤 優

一般検査では尿を中心に便、脳脊髄液、胸・腹水、関節液など多種多様な検体を対象とします。この中で尿、便の検査は、検体採取時に苦痛を与えないため、患者さんに優しい検査といえます。尿検査の主な項目は尿中に溶け込んでいる化学成分である蛋白、糖、ビリルビンや細胞成分である赤血球、白血球などで、学校健診でも使用する試験紙法とよばれる方法で測定します。写真1は尿試験紙法の自動分析装置です。また尿中の成分を顕微鏡で観察する尿沈渣(にょうちんさ)検査も多くの医療施設で実施している検査の一つです。尿沈渣では尿中の上皮細胞、赤血球、白血球や円柱(えんちゅう:腎臓の細い管の中で蛋白が凝縮したもの)などを検出し、また、悪性の可能性のある細胞や腎炎、膀胱炎などの診断に必要な重要な検査結果を医師に報告します。写真2は学生が尿沈渣実習を行っているところです。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る

臨床化学

北里大学 石井 直仁

臨床化学は、医療実践の現場を意味する臨床で、血液や体液中の成分を化学分析により測定し、病因・病態の解明、診断、治療の評価に貢献しています。
測定(検査)値は、正確(真の値に近い)で、精度良く(ばらつきが小さい)なければいけません。そのため、化学分析はもとより物理学分析(光の透過・吸収、電気伝導、質量、等)も用いられています。学校では、化学分析や物理学分析の原理や技術を学びます。また、健康な体との比較のため生化学(生物化学)も学びます。


  • タンパク質測定(色素法)

濃度の違いが色調の違いとなります。タンパク質と色素の反応液を、光の吸収を用いる比色計(吸光光度計)で測定し、タンパク質濃度を数値化します。

一覧に戻る

免疫検査学

東京医科歯科大学 窪田 哲朗
(現所属 つくば国際大学)

感染症では,体内に侵入してきたウイルス,細菌などの病原体を排除するために免疫系が働きます。免疫系は悪性腫瘍が発生した場合にも働きますし,ときには正常の細胞の成分と反応する自己免疫反応が起こって,膠原病などの自己免疫疾患の原因となることもあります。免疫検査学では,これらの免疫系の仕組みを勉強するとともに,抗原抗体反応を利用した様々な臨床検査法の原理についても勉強します。
写真1は学生の血液細胞に蛍光標識抗体を結合させて,フローサイトメーター でヘルパーT細胞と細胞傷害性T細胞の比率を解析しているところです。写真2は抗核抗体検査です。膠原病患者の血清中の自己抗体が,細胞の核と反応する様子を蛍光顕微鏡で観察します。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る

遺伝子関連・染色体検査学

純真学園大学 福應 温

染色体検査は染色体の異数性や相互転座など大きな遺伝子領域の異常を検出するもので、比較的古くから臨床医学に応用されてきました。近年、1塩基の解像度で遺伝情報を解析できるようになり、遺伝子検査が急速に普及してきています。遺伝子検査では採取した種々の検体から核酸を抽出し、対象の遺伝子を増幅して病気の原因となる遺伝子変異や感染源となる病原体遺伝子の解析を行います。微量な検体を扱う為にあらゆる操作に細心の注意が必要です。学生は遺伝学や分子生物学などを修得した後に、遺伝子検査学の講義で核酸抽出法や遺伝子の増幅法などを学び、実習ではその実践を行います。写真は細胞からの核酸抽出を行なっている学生の様子です。

一覧に戻る

輸血・移植検査学

徳島大学 細井 英司

輸血・移植検査では、主に患者さんから採取した血液を検体として免疫血清学的あるいは遺伝子学的検査を実施し、輸血時における適合血の選択や細胞・組織・臓器の移植時の適合性診断などを行います。通常輸血する血液は他人由来の血液であるため、輸血実施による不適合輸血や溶血性輸血副作用を未然に防ぐ必要があり、患者のABO、RhD血液型検査、不規則抗体検査および交差適合試験を実施し、輸血の適合性や安全性を確認します。骨髄移植や臓器移植時の移植前検査では、HLA 抗原をはじめとした各種抗原や抗体の検査を実施し、移植時の適合性を判定する必要があります。輸血・移植検査学の講義・実習では、これらの検査を実施するための専門的知識や技術について学びます。写真1は輸血検査で使用する機器と器具、試薬です。写真2は実際に学生がABO血液型検査(スライド法)を実施している様子です。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る

臨床微生物検査学

帝京大学 松村 充

細菌は、人に害を与えるもの、有益に働くもの、まったく無害なものなど、たくさんの種類があります。感染症が疑われる炎症部位から採取された検体(尿、痰、便、血液、膿など)を検査材料として、病気の原因となる細菌を見つけ(塗抹検査、分離培養、同定検査)どんな薬が効くか(薬剤感受性試験)を検査しています。また、薬剤耐性菌などの検出状況を把握し、院内感染対策に取り組んでいます。
学生は、こういった一連の検査に必要な臨床微生物学の知識や臨床検査技術を身に付けます。写真1は薬剤感受性試験(ディスク拡散法)を実施している様子です。写真2は同定試験の確認培地への菌の接種を行っている様子です。


  • 写真1 薬剤感受性試験

  • 写真2 同定試験

一覧に戻る

寄生虫学

帝京大学 松村 充

寄生虫とは、ヒトや動物の表面や体内に寄生して害や不利益を与える生物のことをいいます。最近、グルメブームによる生の食品や輸入食品・自然食品の摂取、海外旅行の増加などによって、寄生虫症が問題となっています。学生は寄生虫の種類や寄生部位、虫卵の形態や検出方法などを講義や実習で学びます。写真は横川吸虫卵です。


  • 写真 横川吸虫卵

一覧に戻る

臨床生理学

京都橘大学 所司 睦文

臨床生体検査はセンサや機器を使って、直接、患者の身体を計測・評価する臨床検査です。臨床生理学は臨床生体検査の目的、適応疾病(対象となる患者)、使用機器、方法、健常者の結果、臨床応用(各種疾病に伴う異常所見)、禁忌、検査実施上の注意事項などを体系的に学びます。臨床生体検査には心電図、血圧脈波、呼吸機能、脳波(図1)、筋電図、心臓超音波、腹部超音波、血管超音波(図2)、骨盤腔超音波、体表超音波、磁気共鳴画像(MRI)、熱画像、眼底写真、平衡・聴覚、味覚・嗅覚ほか、様々な種類があります。臨床生体検査を担当する臨床検査技師には患者の安全確保および患者またはその家族とのコミュニケーション・スキルが求められます。


  • 図1 脳波検査

  • 図2 右総頸動脈超音波検査

一覧に戻る

検査総合管理学

熊本保健科学大学 池田 勝義

臨床検査の役割は、迅速で精確な(精密で正確な)臨床検査結果を患者や受診者に提供することが基本です。このためには、検査データが一定の基準を満たすものでなければなりません。検査の準備、被験者への対応、検体採取から検査データ報告までの一連のプロセスにおける様々な工程において信頼性の確保が必要です。病気の診断や治療経過の判断、健康管理に活用されるため、すべての工程で行われる精度管理の知識と技法を学びます。検査前・検査中・検査後のプロセスの精度管理を総称して「品質保証」と言い、これら一連の概念と方法などについて修得します。

また、医療における全体的視野から、医療施設の組織・機構における検査室の位置づけ、医療機関運営における検査室の任務と管理運営について学びます。検査室管理運営の実際については、検査部門の人事・労務管理、人材育成、コスト管理、試薬・物品等の管理、検査前から検査後までの機器・検査システム管理、第三者機関による外部評価等について系統的に学びます。さらに、医療機関における安全管理とリスクマネジメント、チーム医療と地域医療、災害対策についても学び、医療人としてのコミュニケーションについても修得します。

「検査総合管理学」は、臨床検査領域における総合的な品質管理、リスクマネジメント、組織運営を学ぶ科目です。

一覧に戻る

医療安全管理学

山陽女子短期大学 石河 健

医療の高度化・専門化に伴い、医療を取り巻く環境も著しく変化しています。この状況下、医療を提供する側には、「安全で良質な医療」を提供し続けることが求められています。臨床検査技師は医療を担う一員として、患者様の安全と信頼を確保するために、「医療安全」についての知識や技術の向上に努め、医療安全対策マニュアルに基づいた対処方法なども身に付けておく必要があります。「医療安全管理学」では、このように講義や実習を通して、更には倫理的な行動も含めて継続的に指導しています。これにより医療事故の発生を未然に防ぎ、誰でも安全な医療を受けられる環境を構築していくことが、私たちの責務であるとの自覚が学生個々に芽生えてきているようです。


  • 写真1. 学生による採血実習風景

  • 写真2. 使用済み注射針の廃棄

一覧に戻る

臨地実習

藤田医科大学 杉本 恵子

臨地実習は3年次もしくは4年次までに学内で学んだ基礎医学や臨床検査学を基に、病院や検査センター、地域の施設等にて臨床実習を行うプログラムです。
現場の臨床検査技師から「臨床検査の方法」だけでなく、採血や検体の採取から始まる検査の流れ、患者さんとの接し方、他の医療スタッフとのコミュニケーションの取り方、診療支援など学内では学ぶことのできない実践的な実習を行います。写真1では技師から説明を受け、一生懸命メモを取る学生の姿が見られます。写真2は生化学検査実習風景です。
臨地実習で学生は臨床検査技師の職務と責務を自覚し、その後の学生生活では大きく成長した姿が見られます。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る

卒業研究(大学)

藤田医科大学 杉本 恵子

大学は教育施設であると同時に研究施設でもあります。学生はそれぞれのテーマに沿って、文献検索、実験、解析、統計処理などを行いながら研究の方法や考え方を学びます。臨床検査学は基礎医学や臨床医学に幅広く関連するため、生命科学の様々な分野の研究を行うことができます。再生医療や先制医療、予防医学や臨床応用など話題の研究も盛んです。臨床検査技師は卒後、病院や検査センターで働くだけでなく、業務と並行して研究を行い、学会発表や論文作成を行っている技師も多いです。また、大学院に進学し研究職に就く者もいます。大学では卒業研究を通して研究の基礎となる学びを行います。写真1はDNAの抽出を行っているところ、写真2は卒業研究発表会の風景です。


  • 写真1

  • 写真2

一覧に戻る