一般社団法人日本臨床検査学教育協議会

コラム/エッセイ

「なんか面白そう」からはじまる進路の話 (1)
~「自分で選んで、決めて、そして今ここにいる」という感覚の大切さ~

高校3年生の頃

「私、臨床検査技師になろう」

「私、臨床検査技師になろう」そう決めた瞬間のことを、今でもはっきりと覚えています。

高校3年生の春、私はまだ明確な進路を決めていませんでした。ただ、「生物」の授業で遺伝子について学び、とても面白いと感じていました。そこで、遺伝子やバイオテクノロジーについて学べそうな理学部や農学部への進学を、漠然と考えていました。

友達の家で一緒に試験勉強をしていた時のことです。勉強の合間に、部屋にあった通信教材の付録の進路情報誌を、何気なくパラパラとめくっていました。すると、ふと「臨床検査技師」のページに目が留まりました。

どんな仕事?

どんな学校があるの?

どんなことを学ぶの?

そこには「血液学」「微生物学」「免疫学」「病理学」などの科目名が並んでいました。

当時、「エボラ出血熱」という致死率の高い感染症がアフリカで流行しており、テレビのニュースや新聞でも大きく取り上げられていました。また、「アウトブレイク」という映画を観て医学の分野にも少し興味を持っていた私は、これらの科目名に強く心惹かれました。

「面白そう!これらの科目を学びたい!私、臨床検査技師になろう」

私の進路が定まった瞬間でした。

その後、臨床検査技師養成課程のある大学に進学した私は、臨床検査技師への道を本格的に歩み出しました。

「将来の不安」より「今の面白さ」

期待していた通り、大学での授業や実習はとても面白いものでした。

微生物検査の実習では、成分の異なるさまざまな培地が入った試験管に菌を植えます。翌日観察すると、培地の色が変わっています。菌が気体を産生し、培地の中に空洞ができているものもあります。黄色、ピンク、黄緑、水色……カラフルな変化や気体の有無から、菌の種類を推定しました。

血液検査学の実習では、スライドガラスに血液を薄く広げて塗り、紫色の染色液で染めてから顕微鏡で観察します。高校の授業では「白血球」とひとまとめにされていた細胞には、実は「好中球」「好酸球」「好塩基球」「単球」「リンパ球」の5種類があり、それぞれ見た目が異なります。また、体を守るときには、細菌には好中球、ウイルスにはリンパ球というように役割分担があることも学びました。

試験前日は友達とファミレスで徹夜、試験が終わったらカラオケで打ち上げ。アルバイトやサークル活動にも精を出し、大学での4年間はあっという間に過ぎていきました。

そして、臨床検査技師免許を取得しました。

当時、臨床検査技師の就職はとても厳しいものでした。大学の廊下の求人情報コーナーには、看護師、理学療法士、作業療法士の求人がずらりと並んでいます。しかし、臨床検査技師の求人はほんのわずかでした。それでも私は、この道を選んだことを後悔したことはありませんでした。「将来の不安」よりも、「今、学んでいることの面白さ」の方が勝っていたのです。

卒業研究は「学問への入口」

卒業研究では「先天性第Ⅹ因子欠乏症の遺伝子解析」というテーマに取り組みました。

第X因子(だいじゅういんし:Xはローマ数字の10を表します)は、血液が固まるときに働くたんぱく質(血液凝固因子)のひとつです。先天性第X因子欠乏症は、遺伝子の異常によって第X因子がうまく作られず、出血しやすくなったり、血が止まりにくくなったりする、生まれつきの病気です。

患者さんの白血球からDNAを取り出し、「DNAシークエンシング」という技術を使って、第X因子の遺伝子を調べます。そして、苦労の末――患者さんの遺伝子の中に、健康な人とは異なる部分を1か所見つけました。その異常は、世界でまだ誰も報告していないものでした。

第X因子遺伝子のDNAシークエンシング
第X因子遺伝子のDNAシークエンシング

先生に「大学院に進めば、この遺伝子の異常が第X因子の構造や機能にどのような影響を与えるのかを調べることができる」と教えていただき、私は卒業研究の続きをもっと深く知りたいと思うようになりました。そして、大学院に進学することを決めました。

卒業研究を通して、「血液検査学」で学んだ「血液が固まる仕組み」の理解はさらに深まりました。私にとって卒業研究は、「血栓止血学」という学問分野への入口となりました

大学院では、「遺伝子組換え」や「タンパク質発現実験」など、大学ではできなかった本格的な実験に取り組みました。そして、卒業研究で見つけた遺伝子の異常によって、第X因子が正常につくられなくなることを突き止めました。

私の研究はそこまででしたが、その後、同じ研究室の後輩がさらに研究を進め、英語の論文として発表してくれました。

Nagaya S. et al. Congenital coagulation factor X deficiency: Genetic analysis of five patients and functional characterization of mutant factor X proteins. Haemophilia. 2018;24(5):774-785.

https://doi.org/10.1111/hae.13606

筆者:關谷 暁子(せきや あきこ)

臨床検査学教育協議会 副理事長、広報委員長
北陸大学医療保健学部