コラム/エッセイ
【対談】サッカー日本代表のチーム作りから学ぶ、
これからの臨床検査技師教育(2)
昭和医療技術専門学校の学校長として臨床検査技師の育成に携わる山藤賢先生は、現役の医師であり、サッカー日本代表チームドクター複数の医療法人の経営者という顔も持ちます。
その山藤先生と、サッカー日本代表・森保一監督による共著『日本のために!』がこの度出版されました。立場は違えど同じ未来を見つめる二人の熱い対話から、これからの臨床検査技師教育のヒントを探ります。「最上位の目標」を共有するチーム作り、個を認める心理的安全性、国試合格のその先にある「学習者の幸せ」に迫ります。《全4回》
関連リンク: 日本のために!世界一に挑戦する日本人の「誇り」と「あり方」
(この対談は2026年6月5日に収録されました。)
(第2回)自利と利他
──最上位の目標が人と組織を動かす
山藤
本の中に森保さんのサンフレッチェ広島時代のエピソードが出てきますけど、僕はあれがすごく好きなんです。以前にこの話を聞いた時、「ああ、森保さんらしいな」と思ったんですよ。
關谷
応援団の方とのやり取りですね。
山藤
そうです。森保さんが試合後に応援団のところへ行って、「応援してくれてありがとう」と伝えたら、向こうからも「ありがとう」と言われた。
關谷
その場面、私も印象に残りました。「みんなに喜んでもらうことが自分たちの仕事なんだ」って初めて気づいたという場面ですよね。
山藤
そうなんです。僕はあそこに、森保さんのチームづくりの原点があるような気がしているんですよ。
選手の頃は、自分が上手くなりたいとか、試合に出たいとか、勝ちたいとか、どうしても自分が中心になる。でも監督になって、応援してくれる人たちの喜びが見えた。その瞬間に、自分たちが何のために戦うのかが変わったんだと思うんです。
關谷
なるほど。
山藤
僕が面白いなと思うのは、森保さんが「日本のために」と言ったことなんです。
選手個人の成長でもない。監督としての評価でもない。もっと上に、「日本中の人に喜んでもらう」という目標を置いた。
關谷
だから代表選手たちも、みんな同じ方向を向けるんですね。
山藤
そうなんです。
もちろん「自分がうまくなりたい」とか、「試合に出たい」とか、「活躍したい」とか、それぞれの思いはある。でも最上位に「日本中の人に喜んでもらう」があると、全員が共有できる。
僕はそこがすごいと思うんですよ。
そういう文脈での「日本のために」なんです。
關谷
それを聞いていて、先生の学校の「全員卒業・全員合格」と重なりました。

山藤
よく誤解されるんですけどね(笑)。国家試験に受かればいい、という話ではないんです。
全員卒業、全員合格って、学生だけが喜ぶわけじゃない。親御さんも喜ぶ。教職員も喜ぶ。卒業生を迎える医療現場も喜ぶ。みんながハッピーになる。
だから目標として掲げる価値があるんです。
關谷
「全員が喜ぶ」というところが大事なんですね。
山藤
そう。森保さんも同じだと思うんです。
日本中の人に喜んでもらう。それが最上位の目標なんですよ。
關谷
ワールドカップ優勝そのものではなく、「日本人みんなの喜び」を目指している。
山藤
僕はそう思います。
優勝は大事です。国家試験合格も大事です。でも、それは目的ではなく結果なんですよね。大事なのは、その先にある価値をみんなで共有することです。
最上位の目標が共有できると、人は自然とまとまる。
關谷
結果を追いかけるのではなく、その先にある価値を共有する。
山藤
そう。
それに僕は、全員でやった方が個人でやるよりも必ずパフォーマンスは高いと思っています。
だから「じゃあそれで行こうぜ」となる。森保さんの「チーム一丸となって」と同じですよ。
關谷
最上位の目標があるから、一丸になれるんですね。
山藤
そうです。

山藤
そして仮に結果が出なかったとしても、その挑戦には意味がある。
長い時間の流れの中で見れば、次につながるから。
森保さんも、勝った負けたで終わらない話をしている。そこが僕は好きなんです。
關谷
ワールドカップ優勝も、全員卒業・全員合格も、その先にある「みんなの喜び」のためにある。今日のお話を聞いていて、その意味が少し分かった気がします。
山藤
そうですね。僕は医療も教育も、本質はそこだと思っています。
誰かの喜びが自分の喜びになる。それが利他と自利が一致した状態なんです。
關谷
なるほど。
山藤
勘違いして欲しくないのは、全員が同じ目標を持つことは大事だけど、みんなが同じ人間になる必要はないということです。
むしろ大事なのは、「じゃあ僕らはどういう個であるのか」ということなんです。
關谷
どういうことですか?
山藤
次は、「まず“私”がある」というテーマから、チームづくりと教育について考えてみましょうか。
(第3回へ続く)
