コラム/エッセイ
医療という交響曲(3)
―オーケストラで描くチーム医療と臨床検査技師の物語-
医療の現場では、さまざまな専門職がそれぞれの強みを発揮し、力を合わせて患者さんを支えています。その姿は、それぞれ異なる楽器を奏でながら、「医療」という音楽をつくり上げる「オーケストラ」のようです。では、「臨床検査技師」という演奏者が奏でるのは、どのような楽器でしょうか?
クラシック音楽に詳しい教員が、臨床検査技師の仕事や役割を音楽になぞらえながら、「臨床検査技師の奏でる音色」を独自の視点でひも解きます。漫画とあわせてお楽しみください。《全5回》
(第3回)その一打~ショスタコーヴィチ 交響曲第7番 第1楽章 にのせて~
前回、私は臨床検査技師を「患者さんの病気の時間の流れを読み取り、その変化を医療チームへ伝える専門職」と紹介しました。
今回は、その役割をイメージできる一つの音楽を紹介します。それが、20世紀ロシアの作曲家ドミトリー・ショスタコーヴィチ(1906~1975)が作曲した交響曲第7番《レニングラード》第1楽章です。YouTubeなどでも聴くことができますので、ぜひ文章を読みながら耳を傾けてみてください。
この曲は、1941年、ナチス・ドイツ軍によってレニングラード(現在のサンクトペテルブルク)が包囲された時代に作られました。飢えや寒さ、絶望の中で暮らす人々を励まし、「生き抜こう」という願いを込めて書かれた作品とされています。
第1楽章は、美しく穏やかな音楽から始まります。しかし、やがてスネアドラム(小太鼓)が「タカタカタン、タカタカタン、タカタカタン・タカタカタカタン・タカタタタタタン、タカタカタン、……」と小さなリズムを繰り返し刻み始めます。最初は何気ないそのリズムも、繰り返されるうちに少しずつ大きくなり、演奏する楽器も増えていきます。そして最後には、弦楽器、管楽器、ティンパニ、そして多くの打楽器が加わり、オーケストラ全体が激しく鳴り響きます。まるで戦争が少しずつ近づき、ついに町全体をのみ込んでしまう様子を描いているようです。
私は、このスネアドラムの役割が、臨床検査技師の仕事によく似ていると思っています。
臨床検査では、最初に現れる異常は小さな数値の変化です。その小さな変化に最初に気付くのが臨床検査技師です。もし異常が続けば、検査値は少しずつ変化し、その情報は医師、看護師、診療放射線技師など医療チーム全体へ伝えられます。すると、それぞれの専門職が動き始め、患者さんを守るための治療が始まります。
ショスタコーヴィチの交響曲では、一つのスネアドラムのリズムがオーケストラ全体を動かしました。医療でも、一つの検査データが医療チーム全体を動かすことがあります。私は、この二つがとてもよく似ているように感じるのです。臨床検査技師は、決して一番目立つ存在ではありません。しかし、小さな異常を誰よりも早く見つけ、その情報を医療チームへ届ける「最初の一打」を担っています。
その一打が、患者さんの未来を変える。
それこそが、臨床検査技師という仕事の大きな使命なのだと私は思っています。
