コラム/エッセイ
医療という交響曲(4)
―オーケストラで描くチーム医療と臨床検査技師の物語-
医療の現場では、さまざまな専門職がそれぞれの強みを発揮し、力を合わせて患者さんを支えています。その姿は、それぞれ異なる楽器を奏でながら、「医療」という音楽をつくり上げる「オーケストラ」のようです。では、「臨床検査技師」という演奏者が奏でるのは、どのような楽器でしょうか?
クラシック音楽に詳しい教員が、臨床検査技師の仕事や役割を音楽になぞらえながら、「臨床検査技師の奏でる音色」を独自の視点でひも解きます。漫画とあわせてお楽しみください。《全5回》
(第4回)音は、データとなった~音楽のデジタル化が医療の未来を開いた~
前回、私は臨床検査技師を「医療チームを最初に動かす打楽器奏者」と紹介しました。では、その打楽器はこれからどのように進化していくのでしょうか。
昔、ピアノや木琴などの鍵盤楽器は、たたくことで音を出す楽器でした。演奏が終われば音は消え、その瞬間だけの芸術でした。
ところが、音楽の世界は大きく変わります。
シンセサイザーやコンピューター、そしてMIDIという技術が登場したことで、鍵盤をたたくことは、「音を出す」ことから「情報を入力する」ことへと変わりました。演奏はデータとして保存され、編集され、世界中で共有できるようになったのです。
実は、医療も同じ変化を経験しています。
昔は検査結果や診療記録は紙に書かれていました。しかし現在では、血液検査、画像検査、薬の情報、診療記録など、あらゆる医療情報が電子化され、一つのデータベースに集められています。
その中で臨床検査技師は、検査を行うだけではありません。正確な検査データを生み出し、それを医療情報として蓄積し、医療チーム全体が活用できる形で支える役割を担っています。
つまり、臨床検査技師は「検査をする人」から、「医療情報を創り出す人」へと役割を広げているのです。
最近では、「AIが発達すれば臨床検査技師は必要なくなるのではないか」という意見を耳にすることがあります。しかし私は、その逆だと思っています。
AIは大量のデータを解析することは得意です。しかし、AIが正しく働くためには、正確で信頼できるデータが必要です。そのデータを生み出し、品質を保証し、患者さんの状態を読み取りながら医療チームへ届けるのが臨床検査技師です。だからこそ、AI時代になればなるほど、その役割はさらに重要になると私は考えています。
かつて打楽器は、音を奏でる楽器でした。そして今は、情報を奏でる楽器へと進化しています。私は、その姿が未来の臨床検査技師そのものではないかと思っています。
