一般社団法人日本臨床検査学教育協議会

コラム/エッセイ

法医学の卒業研究 (2)

警察から届いた血痕鑑定の依頼
― 実際の事件を手がかりに始まった研究

さて、そんなこともあり、ある事件の捜査で投稿した論文を目にした他県の警察関係者から血痕の鑑定依頼を受けました。詳細は控えますが、被疑者は自分はやっていないと黙秘をしているので、事件現場の血痕の写真を見てほしいということがきっかけでした。事件現場の写真を見ると様々な滴下血痕や飛沫血痕が写し出されていました。その中でも着目した1枚は特徴的な形状を示すこのような血痕です。

血痕が語る“事件の動き”
― 血痕形状から読み解く出来事の痕跡

日本ではアメリカ等の諸外国と異なり、血痕動体の研究はやや遅れを取っているのが現状です。その理由として、大学の法医学関係者は死にまつわる研究を、警察の指揮下にある科捜研は捜査や鑑定実務にまつわる研究を行っていて、その中間をリンクする研究が手薄いのです。日本では本来、刑事部の鑑識課がその役割を担うはずですが、人員数や使用する機器、および方法などアメリカ等の諸外国には及びません。

話はそれましたが、写真の血痕形状を見て出血者(被害者)単独で形成できる形状ではないことを感じました。これはどういうことかと言うと、通常、滴下や飛沫した血痕形状は先が尖っている方が出血者の進行方向であり、加害者が用いた凶器に付着した血液が飛沫する場合は、その凶器が振るわれた方向ということになります。加えて、血痕形状が細ければ細いほどスピードが速く、壁や床への衝突角度が浅いことを示します。さらに飛沫血痕の先端から伸びる線のような2次飛沫は更にそのスピードや壁や床に飛び散った時の衝撃が強いことを示します。

学生たちと挑んだ再現実験
― 血痕ができる瞬間を確かめる

そこで実験を行い、実際にこの血痕の形状を形成するためにはどのような力学が働くのかを検証してみようと思いました。ちょうど大学の4年生の卒業研究の時期と重なっており、学生たちとこの謎に取り組もうと考えました。

まず、凶器(成傷器)の形状として、① 長さの異なるもの、② 成傷面積(凶器が作用したときに被害者と接する面の面積)の異なるものを大小3つずつの組み合わせで、全9種用意して、それぞれの成傷面に血液を塗布してスイングし、壁や床に飛び散った飛沫血痕を観察、計測しました。スイングする際は同じ速度でスイングを行わないといけないので野球で使用するスピードガンを使用して一定速度でスイングしました。

筆者:中川 泰久(なかがわ やすひさ)

岐阜医療科学大学保健科学部臨床検査学科